ロボットによる福島第一原発2号機のペデスタル内点検調査で思う事[戻る]

◆福島第一原発2号機の格納容器内作業ステージの写真について(2017年2月1日付け)
2017年1月31日の朝日新聞朝刊1面と4面に「原子炉下溶融燃料か」「福島第一2号機、黒い隗を撮影」の記事が大きく報道されています。
原子炉関係の技術者は、溶融金属が高温度に成って溶け落ちて、16cm厚みの鋼鉄製容器から下部の作業ステージ(グレーチィング)やその下部のペデスタルのコンクリート床に落下した事故の現場を見た人はほとんどいないのではないかと思われます。
しかし、鉄などの溶融金属の製錬現場では、製錬炉の底から高温度の溶融金属が漏れ出して、下部の作業ステージやその下部のピットのコンクリート床に流れ落ちて、それらを損傷してしまうことは、たまにあります。
それらの事故が起きた時、私は何度も現場の調査を行ってきましたが、いずれもよく似た状態が観察されます。
今回の、撮影写真を見ると、それらの状態と非常によく似ており、予測されていたことが少しずつ検証され始めたようです。
福島第一原発2号機がメルトダウンした時、溶融核燃料はどうなったかのMAAP解析が平成23(2011)年11月30日に東京電力から発表されています。
参考資料「MAAP解析とコアコンクリート反応の検討について
この報告書の28ページに、溶融核燃料の原子炉圧力容器からの落下量の推定が説明されています。
今回の撮影写真の結果、この推定の幅がもう少し狭くなったのではないかと思われます。
写真を見てみると、作業ステージの「グレーチィング」が溶けてなくなっていると思われる部分がありますから、溶融核燃料の主な部分はこの穴の部分にあった「グレーチィング」を溶かして、ペデスタルのコンクリート床にかなりの量が落下したものと思われます。「グレーチィング」の融点は1600℃程度と思われるので、姿を残している「グレーチィング」上に堆積しているものは、廻りに飛び散った比較的に比重も小さく、量も少ないコリウム(溶融核燃料)の一部と思われます。

原子炉の底はコンクリートむき出し
金属の製錬炉でも、鉄の製錬炉は鉄の熔解温度が高いので、鉄の製錬炉の下部ピットにコンクリートをむき出しで使用しているような炉は、日本国内ではほとんどありません。下部ピットのコンクリートの表面は、耐火煉瓦や耐火コンクリートで保護されていますし、鉄の製錬炉の溶融温度は高いもので1600℃から1700℃程度です。
それに対して、原子炉にメルトダウンが起きた時には、100トンもの溶融核燃料は2600℃程度になり、格納容器の下部に落下します。
このような危険な炉のピットに、日本の原発の原子炉の底はコンクリートがむき出しのままです。金属の精錬炉の専門家である私からすれば、コンクリートをむき出しのまま使用するような事は、信じられない事です。
この1月18日に原子力規制委員会の審査に合格した玄海原発3・4号炉は、格納容器下部のキャビティ床をコンクリートそのままにして、側壁の6.4mm鉄板の保護に30cm厚みのモルタル保護工事をすると申請していますが、余りにも高熱工業の専門知識を無視しすぎると思われます。

作業足場のグレーチングに1m×1mほどの穴が開いている写真について(2017年2月3日付け)
2017年2月3日の朝日新聞の1面と35面に「福島第一2号機、格納容器内推定530シーベルト」の記事が掲載されています。
新しく公開された、福島第一原発2号機のペデスタル(原子炉圧力容器台)内の作業足場の写真を見て、重要な情報が有ることが分かりました。この作業足場のグレーチングに1m×1mほどの穴が開いているそうです。
作業足場は、普通は型鋼で骨組みし、その上にグレーチングを貼り付けて製作します。そしてその材料は、ほとんどの場合には普通に鉄といわれている「SS400」が多いと思われます。原発の場合、IAEAの深層防護の第4層の設計思想であれば、もう少し高級な材料を使用するでしょうが、福島第一原発2号機に何が使用されたのかは分かりません。
一応、SS400が使用されたと仮定しての推測です。
SS400は高温でも強度が保持されるのは350℃から450℃程度までで、それ以上の温度になると強度が急激に落ちて、軟化してきます。また、空気中に長時間晒すと、酸化鉄(さび)になってボロボロにやせてしまいます。そして、1600℃程度になると溶けてしまいます。
今回、公開された写真では、グレーチングは蟻地獄状にくぼんでいるようで、穴の右端部にはデブリ(溶けた核燃料)の中にグレーチングのような縞模様が見えますが、それ以外の部分はおそらくグレーチングが生きていて、その上をデブリが流れたように思われます。
この結果から推測すると、デブリの落下が始まって、その流れによりグレーチングに穴が開いたが、型鋼の骨組みの温度が上がり、軟化してきて、荷重を支えきれなくなり、変形してしまい、グレーチングも軟化して伸びて、蟻地獄状になったように推測されます。
福岡県の博多駅前で昨年11月に起きた地下鉄道路工事現場陥没の蟻地獄状とよく似ているように思われます。 この状態から推測すると、福島第一原発2号機もかなりなデブリがペデスタル(原子炉圧力容器台)の床のコンクリートに落下して、MCCI(コアコンクリート反応)がこれまでの予測よりも大きくなっているように思われます。 福島第一原
発2号機の格納容器は3cm厚みの鋼鉄製容器と2m厚みの鉄筋コンクリートでできているので、2m厚みの鉄筋コンクリートが放射線を遮蔽して、このような作業ができます。
しかし、今「玄海原子力発電所の再稼働に関して広く意見を聴く委員会 原子力安全専門部会」で安全審査が行われている玄海原発3・4号炉は、福島第一原発2号機とは全く構造が違うので、原子炉建屋がなく、6.4mmの鉄板と2m厚みのプレストレスコンクリート(福島第一2号機と異なり鉄筋コンクリートではありません)で出来ている格納容器が水蒸気爆発で吹き飛んだら、野ざらしになった玄海原発3・4号炉は屋外が「530シーベルトの世界」になると思われます。

ロボットによる福島第一原発2号機のペデスタル内点検調査の感想
「原子炉下溶融燃料か」「福島第一2号機、黒い隗を撮影」の記事ではじまった、ロボットによる福島第一原発2号機のペデスタル内点検調査の新聞・テレビ、インターネットの報道に、今大変関心が集まっているようです。
これまでも福島第一原発の原子炉内の格納容器内には、ロボットが入って、内部の動画撮影が行われてきましたが、この場所にはデブリはなかったと思います。
今回、うまい工夫を凝らして、初めてロボットがペデスタル(原子炉圧力容器を支える円筒状コンクリート支持台)に入れたので、ペデスタル内のグレーチングの作業足場が撮影されました。
最初に公開された映像は、デリブの落下では損傷していないグレーチング上部にあるスプラッシュ(splash 飛散物)と呼ばれているものでした。
私は昔、燃焼炉の設計の仕事を行っていましたので、製錬現場では1600℃位に溶けた鉄の溶鋼が炉や取鍋から漏洩し、下部にあるピットやコンクリートフロアー、グレーチングフロアーに落下する事も時々あり、何十回もその事故調査を行ってきました。
これらの製錬現場の作業者でも手におえるのは、1800℃くらいまでで、2600℃にもなると命がけの世界です。 これまでの経験に比べて、今回はどうだったのかは、職業的な関心もありましたが、2回目の東京電力の報告で、動画の継ぎ合わせ写真が公開されたので、ある程度分かりました。
予想していたよりもグレーチングが良く残っていました。この蟻地獄状の穴に付着しているのが、福島第一原発の過酷事故で初めて姿を現したデリブと思われます。
しかし、「ロボットによる福島第一原発2号機のペデスタル内点検調査」は、ほんの一歩進んだだけです。 このグレーチングの蟻地獄状の穴から下部に落下したデリブがペデスタル床でどうなっているかの予測が大事です。
舘野淳先生が中心となって発行されている「NERIC News」の2015年4月号の4ページから5ページで「下部に落下したデリブがペデスタルでどうなっているかの質問をいただいて、予測を行っています。専門的に言えば、『落下したデリブによるコンクリートの爆裂問題』の検討も必要ですが、今は全く検討されていないようです。」と述べられています。
ここに書いてあることは、もう少し経てば本当かどうか分かると思われます。
日本では、これらの問題についての専門家の検討がほとんど行われていないのが、残念ながら現状です。
(文責 中西正之)2017年2月6日公開