原子力規制委員会による新規制基準には「抜け道」が作られていた[戻る]

原子力規制委員会による新規制基準には「抜け道」が作られていた

◆日本の新規制基準の第37条の大きな抜け道

日本の新規制基準に水蒸気爆発対策が無い事を、長い間不思議に思ってきました。今回、「大阪高等裁判所平成28年(ラ)第677号 保全抗告申立事件(高浜3,4号機)の決定」と「広島地裁の伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の仮処分の決定」の解析を行っていて、日本の新規制基準の第37条に大きな抜け道が有ったことに初めて気づきました。
日本の新規制基準は「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」に原則が規定されていますが、それを実際に施行するのは「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(https://www.nsr.go.jp/data/000069150.pdf)です。
IAEA(国際原子力機関)の深層防護の第4層にあたる安全規則は、この法律のなかの第37条(重大事故等の拡大の防止等)で71ページから79ページに記載されています。
そして、75ページに非常に重要な項目として、以下が規定されています。
(a)必ず想定する格納容器破損モード
・雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損)
・高圧溶融物放出/格納容器雰囲気直接加熱
・原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用
・水素燃焼
・格納容器直接接触(シェルアタック)
・溶融炉心・コンクリート相互作用
この項目の中の「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」とは、英文で正確にいうと「Molten fuel - coolant interaction」、略してFCIです。
「Molten fuel - coolant interaction」とは、正確には「圧力スパイク」又は「水蒸気爆発」の事を意味します。
「水蒸気爆発」とは、水中に落下した溶融燃料があずき小豆程度の粒径に成った時、何かの衝撃により周りの安定した水蒸気膜がはがれ、超音波を発生し、約1000分の1秒程度で10ミクロンほどの超微粉になるときに起きる爆発です。
「圧力スパイク」とは、あずき小豆程度の粒径になった溶融燃料が周りの水と接触した時、水蒸気膜を通した大量伝熱で急激な水蒸気の発生が起き、1秒から3秒ほどで急激な圧力上昇が起きる現象です。
加圧水型原発(注1)を所有する電力会社の主張は、
「国内外の実験で水蒸気爆発が起きているのは、実験の為にトリガー(何かの衝撃)を与えたためで、実際にメルトダウンが発生し、水中に2600℃程度のデブリ(溶融燃料)が100トン程度落下するときには、トリガーに成る物は全く有り得ないので、実炉での水蒸気爆発は起こり得ない」、また「圧力スパイクは必ず起きることなのだが、圧力スパイク対策はMAAP(注2)のシミュレーションで格納容器が破裂しない事が証明されている」
という事です。
IAEAの「(a)必ず想定する格納容器破損モード」には「水蒸気爆発」が含まれていますが、日本の新規制基準では「水蒸気爆発又は圧力スパイク」とし、水蒸気爆発対策は絶対に必要なわけでは無いとの抜け道を作っていたものと思われます。

(注1)加圧水型原発:関西電力の美浜・大飯・高浜、四国電力の伊方、九州電力の川内・玄海、北海道電力の泊などの原発が加圧水型原発です。なお、【トピックス】の「玄海原発3・4号炉に原子炉建屋がない"不思議"」で、加圧水型原子炉について触れているので、そちらもお読みください。
(注2)MAAP(マップ):アメリカの産業界の依頼で開発されたコンピュータシミュレーションプログラム

◆日本の新規制基準の第50条の大きな抜け道

実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」の101ページに、第50条として
(原子炉格納容器の過圧破損を防止するための設備)第五十条
発電用原子炉施設には、炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため、原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備を設けなければならない。
が掲示されています。
そして、その第50条の解釈として
1 第50条に規定する「原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備」とは、以下に掲げる措置又はこれらと同等以上の効を有する措置を行うための設備をいう。
a)格納容器圧力逃がし装置又は格納容器再循環ユニットを設置すること
b)上記a)の格納容器圧力逃がし装置とは、以下に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう。
c)格納容器圧力逃がし装置は、排気中に含まれる放射性物質を低減するものであること。・・・
が掲示されています。
格納容器圧力逃がし装置とは、ベントの事で、フィルターが必要とされています。
ただし「a)格納容器圧力逃がし装置又は格納容器再循環ユニットを設置すること。」と規定されており、この条文は正確には、「フィルター付きベント装置または格納容器再循環ユニットを設置すること」と規定されています。
ヨーロッパの原子炉は、フィルター付きベント装置は必ず取り付けをしなければならないそうですが、この条文は格納容器再循環ユニットを設置してあれば、フィルター付きベント装置は必ずしも必要ではないと解釈されます。そして、日本の加圧水型原子炉にはたいてい格納容器再循環ユニットが設置されていますから、実際にはフィルター付きベント装置は取付けなくても良い事になっているのです。しかし、格納容器再循環ユニットは安全弁ではありません。
日本の新規制基準は、国内の原発推進者からは「世界で最も厳しい水準の安全規制」と言われていますが、実際には大きな抜け穴だらけです。
そして、2017年3月28日の、大阪高等裁判所平成28年(ラ)第677号 保全抗告申立事件(高浜3,4号機)裁判の決定や、2017年3月30日の広島地裁の伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の仮処分の決定は、基本的にその日本の新規制基準に法律違反していないから、再稼働は合理的であるとする、大変不当な決定を行っていると思われます。

(文責 中西正之) 2017年4月3日公開