玄海原発3・4号炉に原子炉建屋がない“不思議”[戻る]

唐津(佐賀県)から平戸(長崎県)方面に車を走らせていると、玄海原発が遠くに見えてくる。ふだん何気なくみている光景であり、不思議にも思っていなかったが、そこには大きなドーム型の建物が複数ならんでいる。
福島第一原発の事故では、6年前の3月、テレビの画面で見た、原子炉建屋が爆発で吹き飛んだ光景が目に焼きついている。このため、原発について“ど素人”の私は、玄海原発の原子炉建屋は、四角い箱ではなくドーム型をしているのだとばかり思いこんでいた。
しかし、最近になって、玄海原発3・4号炉には原子炉建屋がないことを知った。原子炉建屋を含めて、何重にも防護されているのではないのか? なくても大丈夫なのか? 安全といえるのか? 疑問がわいてきた。そこで、金属炉の専門家で、玄海原発のことに詳しい中西正之さんに聞いてみた。「玄海原発には、なぜ、原子炉建屋がないのでしょうか? 原子炉の型式が関係しているのでしょうか?」と。

以下の文は、その中西さんからいただいた回答である。

原子爆弾の製造からはじまった核の利用が、原子力潜水艦へ転用され、さらに民間の原子力発電所にも転用されて今に至ることも興味深いが、電気出力を大きくすると同時に経済効率を良くするための「改良」の結果が、原子炉建屋なしに行き着いていることも分かった。衝撃的な内容である。

※【資料】に「玄海原子力発電所の概要(主要断面図)」を掲載しています。
原発の構造がわかりやすいです。また、原子炉建屋がないため、使用済み核燃料が納められているプール(使用済燃料ピットと記載)が格納容器に接する形でつくられていることもわかります。

◇参考
玄海原発3・4号炉加圧水型軽水炉、電気出力118万kW
福島第一原発1号炉
福島第一原発2・3・4号炉
沸騰水型軽水炉、電気出力46万kW
沸騰水型軽水炉、電気出力78.4万kW
(文責 片山純子)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(中西正之さんからの回答)

ウエスチングハウス社(WH社)の加圧水型原発は、初めはアメリカの原子力潜水艦ノーチラス号のために開発されたものだったと思います。
原子力潜水艦は揺れて傾くので、原子炉内に蒸気が溜まって、水の液面ができてそれが波打つことが許されなかったのだと思います。
また、核燃料棒の表面に蒸気の泡ができて、それが膜になると、核燃料棒の冷却が不十分になり、核燃料棒が損傷することを恐れて、加圧器を設置し、蒸気発生器という熱交換器を設置して、改めて発電用蒸気を発生させる構造にしたと思われます。そして、蒸気発生器等は細い熱交換パイプが破断して、放射性物質を含んだ冷却水が噴き出す可能性があるので、原子炉圧力容器や加圧器・蒸気発生器などを全部格納容器に収容してしまうために、格納容器が原子炉建屋と同じような大きさになったと思われます。
一方、沸騰水型原子炉は、ゼネラルエレクトリック社(GE社)で加圧水型原発よりも後から開発されました。沸騰水型原子炉は、蒸気発生器や加圧器の設置をやめて、原子炉圧力容器内で蒸気を発生させることにしたので、格納容器は原子炉圧力容器だけを保護することになり、小型化しました。核燃料棒の表面に蒸気の泡ができて、それが膜になると、核燃料棒の冷却が不十分になる点は、ジェットポンプなどを取り付けて、蒸気の泡を吹き飛ばすことで解決したようです。
こうして、先発の加圧水型原子炉は、効率が悪く、割高な原子炉になりました。
ただ、加圧水型原子炉の出力が90万kwまでは、鋼鉄製の格納容器と原子炉建屋の5重防護を行ってきました。
しかし、120万kwぐらいの大型原子炉になると、これまでの設計をスライドすると、設備があまりにも大型になり、建設費もうなぎ上りになるので、格納容器をプレストレスコンクリート製(注)にして、格納容器と原子炉建屋を兼用とし、大幅なコストダウンを行いました。
ただ、コンクリートは肉眼では見えませんが、直径が10ミクロンから20ミクロンくらいの微細なトンネルが無数に存在するので、ガスは2m位の厚みではいくらでも通過して、閉じ込める機能は全くありません。
そこで、6.4mmの薄い鉄板を内部に貼り付けて、ガスシールを行っています。
日本の原子炉は5重の壁を原則とし、安全性を売り物にしてきました。しかし、玄海原発は原子炉建屋がなく4重の壁しかありません。
玄海原発が4重の壁しかないことが知れ渡ると、玄海原発3・4号炉の安全性が疑われるので、九州電力はそのことを隠し続けてきました。そのために、格納容器や原子炉建屋がない図面を隠してきたので、今でもそのことを知っている住民は、ほとんどおられないと思います。

(注)プトストレスコンクリート:テンドン(ピアノ線のような引っ張りに強い鋼線)によってコンクリートに圧縮力のかかったコンクリート。鉄筋コンクリートよりも相当強いので、格納容器作りに採用された。